要望書
南西諸島世界自然遺産に関して
 
環境大臣 
 那覇野生生物事務所
 石垣事務所
 西表野生生物保護事務所
沖縄県 知事 
 自然保護課
 観光課
竹富町 町長
 自然環境課
 商工観光課
マスコミ各社 御中
2017年1月18日
日本野鳥の会西表支部
〒907-1433 沖縄県八重山郡竹富町南風見仲29−74
電話(FAX兼用)0980−85−5530
支部長 衣斐 継一
Eメール:223@offeco.com
ホームページ:http://www.offeco.com/iriomotesibu.html
先月、12月2日、世界自然遺産候補地科学委員会琉球ワーキンググループ会議の公開が
あり傍聴しました。内容的に文章確認の意味合いで、積極的な保護に至る議論が無く、
2月1日迄の推薦書提出という地元住民無視の予定には落胆しました。
昨年、3月12,13日に西表島で「知ろう学ぼう世界自然遺産」と題した講演会の際、
地域住民の意見も聞きながら進めて行くとのことでしたが、行動計画がようやく示され、
議論が始まるのかと思ったら、議論することもなく住民不在の、具体性、実効性のない
計画の羅列に終わっています。自然保護は地域住民の合意が出発点であり、協力無しには
実現できないでしょう。同時にトップダウン(上意下達)ではこの国の憲法の主権在民が
無視されていることにもなります。ですから、全ての議事を住民参加型の公開の話し合いで
開催することを私達は強く要望します。
 
1.イリオモテヤマネコ対策
日本野鳥の会西表支部では生物多様性条約「COP10」(2010年)の際、現行の方法や
財政規模では効果がなく、絶滅に至り税金の無駄遣いになることを指摘しました。しかし、
改善されず、2016年、交通事故が6件、交通事故が疑われる路上死亡は2件に達しました。
根本的な対策の見直しが必要だとは考えられないのでしょうか?
イリオモテヤマネコの交通事故対策は地下道設置や住民への呼びかけなどが主です。
アイラ地区など県道の危険箇所を陸橋にする。凸凹道路でスピードが出せないようにする。
全ての自動車に感知器を取り付け(貸与)ヤマネコを感知し交通事故の防止をすることなどが
考えられます。しかし、法的制約と予算不足で実行できない状況にあります。現行の法体系でも
Nシステムとドライブレコーダーで、加害車両を特定し、検挙や事故防止の情報収集は可能です。
ですが、単純に速度取り締まりさえできていない状況にあります。
なぜか「イリオモテヤマネコ保護増殖検討会」が機能していません。メンバーの見直しや増員、
公開討論を強く要望します。
世界自然遺産登録を目指すのであれば当然、ヤマネコの保護を軌道に乗せ、肉食動物の
一般的な種の維持に必要な個体数300頭を確保すべきだと考えます。これまでの
交通事故対策に重点を置いた保護策ではなく、餌動物を増やし、餌取りに道路に
現れないようにすべきだと考えます。
例えば、農地を無農薬化し餌動物を増やし、減収分の保証をすることなどが考えられます。
イリオモテヤマネコの主な生息地は低地で推薦地には余り含まれていませんので、
種の保護法に基づく保護区設定や行政特区さらに特別立法も考えるべきです。
縦割り行政も解消すべきです。
そして、環境省の自然保護官(臨時職を除く)も1名から3名以上に増員し、24時間態勢が
とれる体制とし、同時に業務の引き継ぎをスムーズにするべきです。近年の短期での
職員の交代は西表の環境保全を軽視するものです。経験のある獣医師の配置や
長期従事者(町職員など)も必要でしょう。
行動計画でも西表島での中核施設の必要性が上げられいますが、カンムリワシ対策をも含め
世界遺産登録前に対策を完成させるべきです。今やるべきことは世界遺産申請ではなく、
イリオモテヤマネコの保護増殖を軌道に乗せることだと私達は考えます。
 
2.カンムリワシの保護と生息数の把握
環境省ではルートセンサスを中心にカンムリワシの生息数の調査が行われていますが、
天候の影響が大きく総数を把握できない方法です。一部定点観察が始まり一定の成果は
出ていますが、更に調査地点や日数を増やし行動調査などの生態調査を要望します。
また、1昨年の「八重山地区カンムリワシ保護対策連絡会議」(略称)で「沖縄こどもの国」で
野生復帰できないカンムリワシの終生飼育が限界にきているとの報告があり、その際にも
「八重山への返還を」と意見を出しましたが、改めて、西表島へのカンムリワシの帰還を
強く要望します。
さらに、カンムリワシの種としての保護を考えると、現在比較的安定している石垣島での
保護体制(開発抑制など)を推進する必要があると考えます。
 
3.農地からの赤土流出防止
最も赤土汚染の酷い地域は大原、大富のサトウキビ栽培地域からの流出によるものです。
仲間川下流域は世界遺産推薦地で国立公園特別地域であり、沖縄県の仲間川保全利用
協定地域でもあります。豪雨時は環境基準を遙かに超える濁度になります。
サトウキビ栽培は数百年前に始まり、伝統作物との視点もありますが、
赤土流失が酷くなったのは復帰後の土地改良などの開発が始まってからです。栽培に
適さないとされていた、赤土(酸性)土壌での栽培や栽培時の数回の起耕などが主な原因です。
サトウキビが台風に対する被害や栽培の容易さから他に代わる作物がないこともありますが、
行政努力により転作を考えるべきです。
パインアップル栽培地域ではマルチ栽培により赤土流出を軽減できますのでマルチフィルムの
譲渡をすべきです。
 
4.仲間川保全利用協定の見直し
10年程前から仲間川中下流域でのマングローブ林の枯死が始まっています。原因は複合的な
もので地球温暖化による台風被害や海水面上昇、水温上昇なども考えられますが、仲間川、
浦内川の動力船入域数と枯木の数から、動力船の影響が大きいことが推測できます。
原因の追及と共に、減船や燃費重視の船舶に変更するなどの対策を急ぐべきです。
地球温暖化防止にも貢献することにもなります。
 
5.シロアゴガエルなどの外来生物
現在根絶に向けて塩素剤やクエン酸の散布を行っていますが、塩素剤は環境への影響が大きく
水系の生態系を破壊してしまいます。シロアゴガエル侵入で最も影響を受けることが推測できる
ヤエヤマアオガエルの生存を危うくし返って移入種の侵入空間を提供することになりかねません。
また、世界遺産では固有種の保護が課題なのに固有種のヤエヤマアオガエルを駆除したのでは、
趣旨に反することになります。
シロアゴガエルはやんばる地域などの情報から大きな環境破壊には至らない可能性があり、
このような環境負荷の小さい動植物とは共生の方法を模索すべきです。アメリカハマグルマや
ツルヒヨドリは西表では大きな影響を与えていません。むしろギンゴウガン(ギンネム)や
モクマオが問題です。多くのエネルギーを使い駆除をすれば、駆除できたとしても、結果的に
温暖化の促進に他ありません。開発地域への侵入が主なので開発抑制の方が
効果的だと考えます。
 
6.国立公園特別地域での指定動植物の見直し
石垣西表国立公園の特別地域が拡大しても指定動植物が適切に見直さなければ保護に
つながりません。
指定植物の中でテンノウメ、モダマ、アマミセイシカは解除すべきで、追加として、
マメ科(コウシュンモダマ、シロバナミヤコグサ、タシロマメ、ヤエヤマネムノキ)、
イワタバコ科(ツノギリソウ、タマザキヤマビワソウ、ミズビワソウ)、
サトイモ科(サキシマハブカズラ)、タコノキ科(ヒメツルアダン)、バンレイシ科(クロボウモドキ)、
ビャクダン科(ヒノキバヤドリギ)、ハイノキ科(コニシハイノキ)、ボロボロノキ科(ボロボロノキ)、
オシロイバナ科(ウドノキ)他多数があります。
指定動物では、特定の浜以外でも繁殖しているウミガメ類(アカウミガメ、アオウミガメ、
タイマイ)は全国的な保護を確立し、指定動物から外し、保護や調査の許可申請を一元化
すべきです。沖縄県の漁業調整規則でも法的には充分守られています。ウミガメ類の西表での
産卵減少は乱獲や昆獲が原因と考えられ、国立公園特別地域での産卵だけを法的に
保護しても余り意味がないと考えます。実際、西表の南海岸のウブ浜、サザレ浜での
リュウキュウイノシシの食害を放置して保護さへも実行されていません。
そして、オオウナギを始め希少淡水魚、両生類と陸生は虫類は全て、ほ乳類では
ヤエヤマオオコウモリ、固有種の昆虫類も加えるべきでしょう。シレナシジミもそろそろ
指定すべきだと思います。
 
7.エコツアーの環境負荷の軽減
行政は「エコツーリズム」推進としてエコツアーを振興してきました。しかし、地球温暖化防止の
視点からは観光振興、産業振興、地域振興の意味合いの強いエコツーリズムは時代遅れの
温暖化促進の施策だと考えます。入域規制、環境対策(自然への負荷対策)を怠ってきた
西表では環境保全型のエコツアーの実現できていません。世界自然遺産申請前に
入島規制を含む、具体的な対策を立てるべきです。
ヒナイサーラ地区の入域規制は西表島カヌー組合によって1業者当たり14名(2ツアー)を
上限としたもので、37業者ですから、もっと確実に管理すべきでしょう。緩衝地帯とはいえ。
実効的な入域規制を行うためには何らかの公的な事務手続きが必要だと考えます。
利用者や住民の納得のいく規制を実行すべきです。
 
8.浦内川取水
現在、環境省より許可を得て浦内取水の施設建設は終了していますが、渇水期に取水すれば、
自然環境への負荷(影響)は大きいものと考えられます。運用変更で増水時に予防的に取水し
貯水する方が環境負荷は小さいと考えられますが、それなら現状の取水場からの取水で
可能だと考えます。
西田川からの取水も国立公園特別地域で、世界遺産緩衝地帯であり、生物多様性条約の
主旨から考え、農業地域からの取水や赤土流出防止対策の沈殿池と併用した、貯水池を多数設置し、
野生生物の餌場となるように近自然環境の貯水池を設置すべきだと考えます。
西表の野生生物は酷暑の雨の降らない時期をどう乗り切るかが生存の条件です。
そのため、植物は川沿いに多くの種が生育し、イリオモテヤマネコやカンムリワシも低地や
川沿いを主な生息域としています。
そんな訳で、河川からの取水は慎重にすべきだと考えます。一度失われた自然は回復不能なのですから。
 
9.地球温暖化
12月2日の議論の中でも「地球温暖化」対策をとの意見もありましたが、地域特有のものでない
とのことで、切り捨てられました。しかし、多くの環境破壊の元凶の可能性があり、特に西表島では
我が国で最大級の温暖化と思われる被害や環境破壊があります。台風被害の増大による
森林生態系の破壊や乾燥化、植生の変化が起こり、海水温の上昇による珊瑚礁白化や
海水面上昇による海岸浸食があり、西表の環境を守るためには避けて通れない問題です。
それを行動計画から外すことは、自然環境を遺産として後世に残していこうとする世界遺産の趣旨から
外れることと私たちは考えます。沖縄にできる温暖化防止として、開発の抑制(条例制定)や無駄な
公共事業の廃止、過度の観光振興に至らないルール作りをすべきだと考えます。
 
10.西表島行動計画について
基本的に早期申請に向けた選挙の公約のような行動計画で、過去の実績の検証のないものや
実効性の望めないものが多く、世界遺産委員会で承認するとは考えにくいものです。
特に「西表部会」の構成機関には観光業や石垣市拠点の団体が多く、民間の環境団体や研究者や
科学者を多数増員し、一般住民の参加できるボトムアップでの計画策定をすべきだと考えます。
また、竹富町役場支所(西表島)に世界自然遺産課を新設し、環境省や沖縄県からの出向職員、
専門職員を置くべきだと考えます。
さらに、生物多様性条約や特定外来生物対策を考慮すれば、沖縄県全域を緩衝地帯や周辺地域と
位置付けるべきだと考えます。
推薦地に関しても法的に特別保護区、国立公園第1種特別地域に限られるならば、浦内川中下流域や
ユツン川下流域を第1種特別地域に変更し、含めた上での推薦書提出を強く要望します。
また、やんばる地区での
推薦地が狭く、北部演習場(ヘリパッドを含め)を推薦地に含め提出するべきだと考えます。
そして、野鳥では、西表で唯一世界レベルの海鳥繁殖地の仲ノ神島を推薦地に加えるべきです。
竹富町の自然保護条例の草案さえも提示されていません。ネコ飼養条例も厳格な持ち込み禁止と
するため沖縄県の条例にするべきだと考えます。
                      
以下の重要課題は強く要望します。
1.環境対策が確実に実行され、実効性が確認されてから、推薦書を提出して下さい。
2.全ての世界自然遺産関連の会合を住民参加型で公開にして下さい。
3.過去の実績、効果を考察し、実効ある行動計画を策定して下さい。
4.やんばる北部演習場(ヘリパッドを含む)と西表島浦内川中下流域、ユツン川中下流域、
  仲ノ神島を推奨地として追加し推薦書を提出して下さい。
5.全てのことに地球温暖化防止や生物多様性条約の観点を持って下さい。